糖尿病=ターゲットは炭水化物にあり


糖尿病は自己責任の病です。

 糖尿病でお悩みの方には、冒頭から少々突き放したような言い方になって申し訳なく思いますが、これは長年、内科実践医として数多くの糖尿病患者さんを診てきた私の正直な気持ちです。
 もちろん、これは日頃の食生活の乱れや偏重からくるⅡ型糖尿病に対してであり、インスリン分泌能力が欠乏しているⅠ型糖尿病に関しては、この限りではありません。同時に、この書はⅡ型糖尿病の方を対象に上梓したものであることも、合わせて書き添えておきます。
 Ⅱ型糖尿病(以下、糖尿病)発症の原因がふだんの食事にあるからには、その食事の改善が最も有効な治療法になることは自明の理です。
 ここが糖尿病治療の非常に難しい点で、私たち医者は指導や助言はするものの、お一人お一人の日常まで介入することはできません。薬の処方など必要な処置はできても、病院を一歩出たら医者はほとんど無力であり、後は患者さんご自身の自己管理にお任せするしかないのです。
 薬やインスリン投与も、治すと言うより血糖値をコントロールするだけ。インスリン注射から解放されるためには、やはり自分自身で食事を改善していくしかありません。
 ですから、糖尿病は自己責任の病気であり、患者さんご自身が主治医となって治す病気にほかならないのです。
 本書は、そうした“自分が主治医”の糖尿病患者さんに、長年、内科実地医として多数の、そしてさまざまな段階の糖尿病と向き合ってきた私が培い、成果を得てきた実践的かつ有効な処方箋--團式炭水化物コントロール法を詳しくご紹介し、自力改善に大いに役立てていただきたいという趣旨でお届けするものです。註)炭水化物=糖質+食物繊維
ここでのべる糖質とはブドウ糖を主に意味します。血糖とは血液中のブドウ糖の値のことです。糖尿病治療においてその代謝の等異性より果糖も無視することはできません。本文で炭水化物というときには、ブドウ糖や果糖を意味していることがありますのでお察しください。
 なお、本文で詳しく説明しますが、團式炭水化物コントロール法はすべてのⅡ型糖尿病患者さんを対象としていますが、主として食後血糖スパイクを抑えることを大きな目的に置いています。多くのケースにおいてヘモグロビンA1cが七%以下を糖尿病学会は目標にしていますが、私はさらに食後血糖スパイクのことを念頭に患者さんの治療にあたっています。
 もちろん、ヘモグロビンA1cが八パーセントを超えている方に対しては可及的速やかに厳格な治療をアドバイスする事は言うまでもありません。ヘモグロビンA1cが七を切っていても後述いたしますが、ヘモグロビンA1cの質が問題なのです。なぜなら食後血糖スパイクを抑えないとたとえ糖尿病の診断がついていない境界型糖尿病の段階からすでに動脈硬化やアルツハイマー認知症のリスクが始まっているという多くの報告があるからです。
 さて、自らを主治医として糖尿病の食事治療に取り組む患者さんにとって、何よりも胸に刻みつけておいて欲しいのは「ターゲットは炭水化物にあり」ということです。
 みなさんは、糖尿病という病気はいったん罹ったら治らないし、食べ物も生活も制限される。それを拒めば網膜症や腎症などの命に関わる合併症を覚悟しなくてはならない。そんな厄介きわまりない病気と思いこんでいませんか。
 それは事実ではありません。糖尿病は、実は原因と対策がきわめてシンプルで、一つのセオリーさえ守れば、ごく治しやすい病気なのです。現在インスリン注射を余儀なくされている方も、この1つのセオリーさえ守れば、時を経ずして、その煩わしさから解放されます。そして改善した後も、引きつづきそのセオリーを心がけ実践すれば元に戻る心配もありません。
 そのセオリーとは「炭水化物(特にブドウ糖)を自己の処理能力限界内にまで減らすこと」。この一点に尽きます。これからお話しすることは厳格な糖質制限ではありません。
私は適正糖質食と勝手に名付けています。
たんぱく質も、脂質もふつうに食べて、何の問題もありません。糖尿病は炭水化物の摂りすぎから起こる病気ですから、その時点の自分の炭水化物処理能に応じた炭水化物の摂取さえ工夫すれば良くなるのです。←この辺りに正常からインスリン注射が必要な程度の糖尿病間の相互移行性の図を入れる
 実は、この小学生のお子さんでも分かる簡単な道理が、患者さんのみならず、医者の中でさえいまだに理解してない人が多い現状が、私には不思議でなりません。やれカロリー制限だ、やれ脂が悪い、ストレスもよくないだの、本筋から外れたところに目を向けて、糖尿病をかえって難しい病気にしてしまっているのです。
 何故でしょうか。医師の食事に関する無関心もあるでしょう。常識のウソにとらわれていることもあるでしょう。中には、患者さんにいちいち詳しく説明するのも面倒と思っている不埒な医者もいるかもしれません。また、あまり言いたくないことですが、できるだけ薬を使いたいという経営的な背景も否定できないでしょう。
 いずれにしろ、その人の処理能力を超えている炭水化物さえ減らせば簡単に治せる病気を、時間もお金もかかる複雑な病気にしているのは明らかに医療のほうに責任があると、私は思っています。
糖尿病の食事療法でターゲットになるのは炭水化物。これは数多くの研究で証明されており、医学では定説になりつつあります。
 一つ、分かりやすい例を紹介しましょう。これは本文で詳しく述べますが、血糖に関する試験に「75GTTブドウ糖負荷試験」と「糖尿病テストミール負荷試験」というのがあります。   ←  この2つの試験の簡単な解説を別枠で
前者は液体ブドウ糖75g(300kcal)を、後者は炭水化物、脂質、たんぱく質で構成されたテストミール(460kcal)を10分以内に摂取させ、食後血糖値の上昇を見たものです。ちなみに、炭水化物は体内でブドウ糖に変わって各組織のエネルギー源になり、余剰分が血糖になります。
 結果はカロリー信奉者にとっては意外です。300kcalのブドウ糖のほうが、460kcalのテストミールよりも血糖値の上昇が大きくなります。
 食後血糖値の上昇は、食後血糖スパイクとも呼ばれ、近年はこの繰り返しが糖尿病の最大のリスクファクターとされています。
この食後血糖値の差は、すちなわ炭水化物量の差であり、総カロリー量ではないことは、このデータからも明らかです。
 つまり、血糖値を上げるのも下げるのも炭水化物であり、脂質やたんぱく質は食後血糖スパイクに関しては直接的には関与していないのです。そればかりか、これも後にふれますが、たんぱく質や脂質には一緒に食べた炭水化物による食後血糖スパイクを抑制する働きまであるのです。
ここに糖新生の話を入れる
 もう、お分かりかと思います。糖尿病の食事療法は、きわめてシンプルです。基本的に脂質やたんぱく質を気にすることはなく、ターゲットは炭水化物だけ。炭水化物の摂取量や摂取方法さえ念頭においてしっかりコントロールすれば、空腹や食の楽しみも奪われることもなく、確実に病気は治ります。これは、私の日々の臨床でも明白な事実です。
 次の問題は、いかにして炭水化物をコントロールするか。この有効な戦術を心得ていないと、今度は「炭水化物の摂取を気をつけているつもり」でも、「つもり」だけに終わってしまいます。たとえば、食品の炭水化物含有量をあやふやなイメージだけでとらえていると、思いもよらぬ落とし穴にはまることも少なくありません。きちんと確認をせず、単なるイメージや思いこみで「これなら大丈夫だろう」と食べていたものが、逆に炭水化物が多く、改善の妨げになっていたという例は多くあるのです。
 実際、こんな笑い話のような話もあります。「先生の言うとおり、三度三度の食事はきちんと炭水化物をコントロールしているのに、いっこうに血糖値が下がらない」と文句を言うかたがいました。よくよく聞き取りしてみると、どうやら原因はおやつにあったようです。「和食は洋食に比べてヘルシー。だから、おやつでもクリームの多い洋菓子類よりあんこの多い和菓子類のほうがいいだろう」と、好きなケーキをがまんして、まんじゅうを毎日のように間食にしていたのです。
 しかし、思惑とは逆に、炭水化物の多さに関しては和が洋に優ることが多いのです。たとえばシュークリーム(35グラム)の炭水化物量は七.八グラム。これに対してほぼ同じカロリーの柏餅(40グラム)の炭水化物量は18.7グラムと、倍以上になるのです。   ←勿論報告者によっては多少の違いはありますが、一例としてあげています。
  食品80キロカロリーガイドブックを参考
 では、いかにして炭水化物をコントロールすればいいのか? 実は、ここからが團式炭水化物コントロール法の威力の見せどころで、主に五つのセオリーがあります。
 ●wtGLの活用で適切な炭水化物量を調整
 ●同じ摂取量でも、摂取時間次第で食後スパイクを抑制する
 ●他の食品(タンパク質や脂質さらには食物繊維)を併食するのも効果大
 ●間食のとり方にもひと工夫を
 ●適切な運動
 ちなみにwtGLとは、私が独自に考案した実際に食する食品のブドウ糖換算量です。この指標によって食後血糖値の上昇程度を占うことできます。昔からG1値やGL値というのが用いられていますが、これだと実際に一般の方が活用しづらく、また数値にも曖昧な点があると思い、専門家の協力も得て、より実践的な指標を求めたものです。
 いずれのセオリーも、特に難しかったり、面倒なことでもありません。『あなたの食事こそ、あなた自身の薬である』。医学の祖、ヒポクラテスのこの言葉を胸に刻んで、ぜひ実践し、糖尿病との訣別を果たしていただきたいと、心から願っています。

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